アーサー

ジョーカー

http://wwws.warnerbros.co.jp/jokermovie/

 

 アーサーは俺だと感じて泣ける人がうらやましい。私はアーサーではない。病気はなく、虐待も受けておらず、しかし彼のように子どもに優しく接して楽しませることが私は苦手だし、他者に関心を持てない。人を笑わせる仕事がしたいと望むアーサーのほうがずっと人間らしく、善人だ。だからこそ彼という人間は非人間的なゴッサムシティという社会に殺されてしまったように思えるし、だからこそ、私は今のところ社会のなかの一人の人として生きていられるのだろうかと思わされる。

 

 3人を殺してしまったあと、アーサーは我に返って公衆トイレに逃げ込み、自分の人生が決定的に血で汚れてしまったことへのショックを絶望的に受け止めようとするかのように、ゆっくりと踊りだす。絶望の底にいるはずでありながら、身体の中からある種の、これまでに経験したことのない新しいエネルギーがみなぎるように湧いてくるのを彼は感じる。その高揚、踊る肉体から発せられるその熱が、画面越しに私たちの額にまで伝わってくる。

 それは私たちが内心にいつも欲しているエネルギーであり、同時に決して一生関わりたくないと恐れる暗黒のエネルギーだった。私は禁忌の熱にぼうっとして劇場を出た。

 

2019/10/7