『52hertz』
響が他者とのディスコミュニケーションを克服したのかどうかは作中でははっきりしない。他者に届かない声、孤独と相互不理解を象徴する52ヘルツというタイトルを思うと、ある種の障害として、あるいは響自身の一部として彼女の中に残ったままであるようにも受け取れる。その彼女が、千早を自身のもとへ受け入れる。
自分の言葉が人に通じていなくても、それを自覚するのは難しい。一生その事に気が付かないまま言葉を発し続ける人もいる。言葉によるコミュニケーションの複雑さと曖昧さは海のように深く広く、際限がない。千早のような頭のいい子はだからかえってその曖昧さを嫌い、言葉を発することに慎重だ。
『アイドルマスター2 Vinyl Words』
アイドルマスター2 Vinyl Words - ニコニコ動画
「ビニールのような言葉」は話し手と聞き手のどちらから生まれているのか。
響は自分の言葉が動物にも通じると信じている。それはきっと彼女の妄想に過ぎない。響は自分の言葉が、どんな相手にも自分の意図したとおりに伝わると信じている。それが本当ではないことを本当は知っているのに、それでもきっと信じている。それが彼女にとってのカンペキであるからだ。だから彼女は52ヘルツの言葉を発し続ける。発し続けることそのものが彼女のコミュニケーション手段だからだ。人にも、海にも、動物にも。
そうして耳を澄ませる。千早の小さな声が聞こえる。