借家の庭

 部屋の掃き出し窓から、庭が見える。

 借りているアパートは2階の大家の他は住人がおらず、庭は実質自分のスペースであった。

 たわむれに球根を植えたり、芝を敷いてみたりするが、それほど熱心には管理していない。

 なので雑草がどんどん生えてくる。私はその雑草の伸びるのを見るのが好きだった。

 ニシキソウ、カラスノエンドウ、ヤハズソウ、スベリヒユ、イヌダテ、ツユクサ、カヤツリグサ、カタバミアメリカフウロエノコログサ、それにもちろんセイタカアワダチソウ

 今年の夏は初めてネジバナシロツメクサを見た。シロツメクサことクローバーはあっという間に繁茂して一坪分ほどになり、コウライシバと勢力を争った。青い三つ葉と白い花の小さな森のあいだを、ナミテントウやカマキリが行き交っていた。

 

 大家はたいへんいい人であったが、庭には興味がないようであった。とはいえ管理者として管理しなければならないという使命感によってか、庭には定期的に除草剤が撒かれた。

 自分もまたそれほど行き届いて管理しているわけではないし、そもそもが自分の庭ではないから、それについてなにか言ったことはない。

 

 まだ9月にもかかわらず、先週まで緑の地だった庭が気がつくと一面の枯れ色に変わっている。この薬剤の威力にはいつも驚かされる。あのカマキリはどうしたろうか。金と青の尾をもったカナヘビは。

 シロツメクサは来年もきっと生えてくるだろう。きっと他の草も。ここは造成地で、庭と言っても地面はほとんどがれきと粘土であった。こんな悪条件の地にも生える緑と自然の力強さをむしろ感じさせる光景として、寂寞の気持ちとともに畏敬の念を抱く。

 

 でもやっぱりやめてほしい。